各科紹介
神経内科 診療の案内はこちら 前へ戻る

神経内科ではどんなことをしているの?
(神経内科の診療活動の紹介)

平成23年5月 井上雄吉

 当科の主な診療活動についてご紹介いたします。

 神経内科は,循環器内科や消化器内科、血液内科などと同様に内科の中の専門科の一つで、主に脳や脊髄、末梢神経、神経と筋肉の接合部(神経筋接合部)、筋肉などの障害から生じる病気やさまざまの症状の診断や治療(主として薬物療法)を行う診療科です。神経や筋肉は、身体の内部や外部環境などの変化に非常に敏感な組織であり、それらの影響を受けやすいという特徴があります。このため神経筋の病気は原因が神経筋自体の障害によるものだけでなく、他の全身の病気に伴うものや周囲環境の異常(中毒など)によるものなど、非常に広範な原因によって生じ、神経内科は広範囲にわたる領域の診療を行っています。
 当院はリハビリテーション(リハ)専門病院ということもあり、急性期の患者さんが少ない点が総合病院における神経内科とは異なる点がありますが、基本的に総合病院と同様に、すべての神経障害の患者さんの診療を行っています。日本神経学会准教育施設に認定されています。
 その中でも当科では、特に以下のような大きく4つの点に力を入れて診療を行っています。

1.脳血管障害や脳外傷などの中枢神経障害後の機能回復の促進を目指す

 傷害を受けた脳の可塑性(plasticity)の促進や、可塑性の異常(maladaptation)によって生じた神経障害の改善を目指すもので、いわゆる機能回復神経学(restorative neurology)にあたるものです。当院では磁気刺激装置が平成11年から導入され、最初は中枢神経障害の程度の評価に用いていましたが、その後この磁気刺激装置を用いて反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation, rTMS)を行い、半側空間無視(主に右大脳半球の傷害によって生じ、反対側に注意が向かない状態)や失語症(主に左大脳半球の傷害によって生じ、言葉の表出や理解ができない状態)などの従来のリハ訓練だけでは改善が困難な難治性の障害への治療を試みてきており、その成果は多くの主要学会や学術誌などに発表、報告しています1)03)。rTMSは、その刺激頻度から大きく、1Hz以下の低頻度刺激と、1Hz以上(主に5Hz以上)の高頻度刺激の2つに分けられます。低頻度rTMSは刺激直下の脳組織に抑制的に作用し、高頻度rTMSは促通性(興奮性)に作用すると考えられています。rTMS治療は、この作用により傷害を受けた脳の可塑性・再構築を促すものです。
 大脳は、健常な状態では左右半球は互いに抑制しあって拮抗し、均衡した状態にあり、脳機能が正常に働いていると考えられています(interhemispheric rivalry)。もし、一側の半球が傷害されると、この左右のバランスが崩れ、傷害と反対側の健側半球は対側からの抑制がとれて過活動の状態となり、これによりさらに傷害半球への抑制が増強して、傷害半球の機能が一層低下することになります。半側空間無視(図1)や失語症などの発症機序の一つとして、このような病態が働いていることが考えられています。このような不均衡状態に対しては、低頻度rTMSで健側半球を刺激してその過活動を抑制するか、または傷害半球に高頻度rTMSを与えることでその機能を高めて、左右半球間のバランス異常を是正することにより、一部の神経障害では改善が期待できます。当科では現在までに、半側空間無視や運動性失語症で傷害半球に低頻度rTMS治療を行い、その有用性を報告してきました1)〜3)
 平成22年12月からは新しい磁気刺激装置が導入されました(図2)。この装置によりrTMSの効果をさらに高めることを目的に、シータ―バースト刺激(theta burst stimulation, TBS)4)という新しいrTMS刺激法を用いて、最近片麻痺における上肢機能障害や失語症などの治療も始めています。TBSは、20ms間隔(50Hz)、3発の刺激を、5Hz、2秒間与えるもので、これを20回連続的に刺激する連続性(continuous)TBS(cTBS)と、8秒おきに20回刺激する間歇性(intermittent)TBS(iTBS)の大きく2つに分けられ、前者のcTBSは刺激直下の脳組織に対して抑制的に作用し、後者のiTBSは促通性に作用します。TBSの作用は通常のrTMSよりも効果的という報告もあり、現在はこのTBS刺激を用いてrTMS治療を試みております。特に、従来の方法と異なり、iTBSでは傷害半球の機能を直接的に高めることが可能となります。現在まで、脳血管障害による上肢麻痺の機能改善を希望して当科にも県内外から多くの患者さんが受診されています。これを何とか改善できないかと、現在作業療法科と共同で、傷害半球にはiTBSを、また麻痺肢には随意運動と神経筋電気刺激を行うという併用療法(ハイブリッド療法と名付けています)を新たに考案して行っています(治療戦略を図3に示します)。痙縮が著明な場合は、ボトックス療法の併用も必要と考えています。この新たな方法で、少しでも機能改善ができればと思っています。

 現在、当科で行っているrTMS治療の対象の神経障害としては以下のものがあります。
 太字は特に重要なもので、上記3つは病院の倫理委員会でも承認されています。
片麻痺における上肢機能障害(作業療法科と共同)
高次脳機能障害:失語症、半側空間無視(言語療法科や作業療法科と共同)
嚥下障害(言語療法科、消化器内科と共同)
後天性吃音などの吃音症(どもり)(言語療法科と共同)
・ 難治性の中枢性疼痛     ・ジストニアなどの不随意運動
 将来は、認知症や他の高次脳機能障害、痙縮の治療にも利用できればと考えています。

2.神経難病に対する診療:薬物療法、リハ訓練など

神経難病診療は当科の最も重要なものの一つになります。診療に制限や限界もありますが、患者さんの生活の質(quality of life、QOL)の改善を目標に、薬物療法やリハ訓練、rTMSなどを用いて治療を行っています。特に、神経難病に対するリハ治療の構築は重要です。
 対象とする主な疾患としては、パーキンソン病やその関連疾患(Lewy小体型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症)、多系統萎縮症(MSA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性筋炎などの筋疾患、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などの認知症などがあります。特に、パーキンソン病や多系統萎縮症の認知障害や嚥下障害などの非運動症状は重要と考え、これらに注目して診療を行っています。神経難病の診療は、医師、リハ療法士、看護師、保健師、薬剤師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、栄養士、臨床工学士などの院内関係者のみでなく、患者さんのご家族など院外の関係者も含め、患者さんを取り巻く多くの職種の方々が協力して取り組む診療体制が非常に重要と考えています。当院はリハ専門病院ということもあり、基本的に様々の障害をもつ患者さんを多職種の人々が協力して診ており、このような診療体制を築きやすいという利点があります。
 平成22年12月より、重症の難病患者さんに対する介護者の休養のためのレスパイト入院事業が開始されました。県内では富山大学附属病院が拠点病院となりましたが、当院もその難病医療協力病院に指定されました。人工呼吸器装着の方、気管切開後で頻回の吸痰を必要とする方、胃瘻造設をしている方、医療依存度が高く常時介護を必要とする方などが対象となり、1年で合計14日までご利用が可能です。以前より当院通院中の患者さんのレスパイト入院は行ってきましたが、今回からは他院に通院されている患者さんのご利用も可能となりました。レスパイト入院をご希望の方は当院の地域医療福祉連携室(TEL 076-438-2233内線506 担当 浦野副室長)までご連絡下さい。
 また、隔週の火曜日午後に専門外来として「パーキンソン病外来」(パーキンソン病以外の神経難病も診療しています)行っていますので、こちらもどうぞご利用下さい。受診ご希望の方は、上記の地域医療福祉連携室にまでご連絡下さい。

3.不随意運動や痙性麻痺に対するボツリヌス療法

痙性斜頸や眼瞼痙攣、半側顔面痙攣、薬物誘発性などのジストニア、脳血管障害などによる痙性麻痺に対するボツリヌス療法(A型 ボトックスBTX)を行っています。表面から同定しにくい深在筋への注射は技術的に難しい点がありますが、当科では電気刺激装置を用いて深在の目標筋を同定し、薬物注入が可能な電極針から局所的に薬物を注入して、効果をあげています。

4.免疫性神経疾患に対する免疫療法

慢性炎症性脱髄性多発神経根炎(CIDP)や自己免疫異常が関与した免疫性末梢神経障害に対する免疫グロブリン大量療法(IVIG)、また多発性硬化症の再発予防を目的としたインターフェロンβ1a(アボネックス)治療などにも力を入れて診療を行っています。
 最近、CIDPの一型で稀な疾患であるchronic immune sensory polyradiculopathy(CISP)や、糖尿病に伴ったCIDPなどでIVIGの著効例を経験し報告しています。

 当院における神経内科診療に関連医療機器:磁気刺激装置、多用途誘発筋電計、キセノンCT(cold法)、CTスキャン、MRI、重心動揺計、脳波計、Power Assist Stimulation(PAS)、ニュートレーサー、自動車運転シミュレーションなどがあります。

 以上、当科における診療内容について紹介しました。今まで一人診療体制でしたが、本年(平成23年)4月からは富山大学附属病院神経内科から外来診療(木曜日午前)の応援を頂くことになり、さらに今後の診療の充実に努めていきたいと考えています。どうぞ当院に一度受診頂ければと思います。外来診察日は毎週月曜日、水曜日、木曜日ですが、初診の患者さんは予約制で地域医療福祉連携室(TEL076-438-2233内線506 担当 浦野副室長)までご連絡頂ければ幸いです。
 また、当科で行っている診療や臨床研究に興味があり、一緒に働いてみようという意欲のある医師の皆さんの来院を心より歓迎いたします。


参考文献:
1)井上雄吉:半側空間無視に対する反復経頭蓋磁気刺激療法の試み.
  神経治療学 2005; 22: 645-653 (http://www.jsnt.gr.jp/
2)井上雄吉:半側空間無視に対する低頻度反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)
  の効果と局所血流量(rCBF)の変化について.
  Jpn J Rehabili Med 2007; 44: 542-553(http://www.jarm.or.jp/
3)井上雄吉、荒木一富、西田勇人、藤田明美、藤本万理、青山麗子
  失語症に対する低頻度反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)
  の効果と回復過程における基底核の役割について.
  高次脳機能研究 2010; 30: 496-509 (http://www.higherbrain.gr.jp/
4)Huang Y-Z et al: Theta burst stimulation of the human motor cortex.
  Neuron 2005; 45: 201-206

 以上の研究論文は、日本神経治療学会論文賞や日本リハビリテーション医学会最優秀論文賞などを受賞しており、また主要学会や研究会などにおいて教育講演、発表なども行っています。